災害時の避難所において、トイレの問題は被災者の健康と尊厳に直結する非常に重要な課題です。
平時では排泄物はトイレを通じて処理されますが、災害が発生するとその機能が停止し、感染症や衛生状態の悪化が懸念されます。
本記事は、避難所のトイレ確保と衛生管理の基本的な考え方や具体的な取り組み方法を示し、被災者の命を守るための重要な指針をご提供します。
もくじ
東日本大震災で起きたこと
東日本大震災では、トイレが避難所に届くまで最大65日を要する自治体もあり、避難者は非常に困難な状況に直面しました。トイレの不備や衛生状態の悪化によって、被災者の健康が脅かされる事態も多く発生しました。こうした経験を踏まえ、トイレの確保と管理の取り組みが必要です。
避難所トイレの現状と課題
災害時の避難所におけるトイレの確保と管理は、被災者の健康や生活環境に直接影響を与える重要な課題です。
東日本大震災では、トイレが避難所に届くまで最大65日を要する自治体もあり、避難者は非常に困難な状況に直面しました。
これらの経験を踏まえ、災害時のトイレ環境の現状を理解し、今後の改善に向けた具体的な課題を明確にすることが求められています。次に、その現状と課題について詳しく見ていきます。
災害時の避難所におけるトイレ問題
災害時の避難所では、トイレの数や衛生状態に多くの問題が生じます。排泄物の処理が滞ると感染症が発生する可能性が高まり、トイレの衛生状態が悪ければ被災者の心身に負担がかかります。
特に、和式トイレの多さや暗い設置場所などの要因により、高齢者や障害者にとってトイレの利用が困難となる場合もあります。
トイレの改善に向けた取り組みの必要性
避難所のトイレ環境を改善するためには、平時からの備えが必要です。市町村をはじめとする関係機関が連携してトイレの確保・管理に取り組むことが求められます。
トイレの確保・管理に関する基本的な考え方
災害発生時には、ライフラインの停止や設備の損壊により、トイレの利用が困難になることが多くあります。そのため、事前にどのようにトイレを確保し、衛生的に管理するかについて基本的な考え方を持つことが重要です。
これから、トイレの種類や備蓄、設置方法、そして被災者全員が安心して使用できる環境を整えるための配慮点について詳しく説明していきます。
災害用トイレの確保にあたって
災害時には、上下水道や電気の停止により水洗トイレが使えなくなることが多くあります。災害用トイレの種類や備蓄、設置に関する体制づくりを平時から進めておくことが重要です。
トイレの仕組み
災害用トイレには、携帯トイレ、簡易トイレ、仮設トイレ、マンホールトイレなど多くの種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。これらのトイレは、被災者が快適に利用できるよう工夫することが必要です。
災害時のトイレ確保の制約
災害時にはライフラインの停止などにより、トイレの確保が難しくなります。こうした制約を考慮し、備蓄や事前の体制づくりが欠かせません。
体制づくり
災害時のトイレ対応は一つの部署だけで実施することは困難です。市町村内の関係部局が連携し、部局横断的な情報共有と対応体制の確立が必要です。
計画づくり
災害時のトイレの必要数や種類を平時から計画し、備蓄や協定の締結を進めておくことが求められます。
災害時のトイレの確保・管理にあたり配慮すべき事項
トイレの確保にあたっては、安全性、衛生性、高齢者・障害者への配慮などが必要です。また、女性用と男性用トイレを分け、誰もが使いやすい環境を整備することが重要です。
トイレの個数(目安)
避難所では、当初は50人に1基、その後は20人に1基のトイレが必要とされています。国連や国内基準なども参考にし、適切な数を確保することが必要です。
災害時のトイレの種類
災害時には、通常の水洗トイレが使えなくなることが多いため、避難所では様々な種類のトイレを確保する必要があります。状況に応じて選択・活用できる災害用トイレの種類には以下のものがあります。
1. 携帯トイレ
- 概要:使い捨ての便袋を使用するタイプで、既存の洋式便器に取り付けて利用します。吸水シートや凝固剤が付属しており、排泄物を安定化させます。
- 特徴:保管スペースが小さく、電気・水がなくても使用できるため、早期段階での対応に適しています。在宅被災者や避難所で活用できます。
2. 簡易トイレ
- 概要:組み立て式で段ボールやプラスチック製の便器に便袋を取り付けて使用します。ポータブルトイレとして室内や屋外での設置が可能です。
- 特徴:持ち運びや設置が簡単で、手すりがついたタイプもあり、福祉避難スペースなどで使用できます。電気や水を必要とせず、備蓄に適しています。
3. 仮設トイレ
- 概要:屋外に設置する大型のトイレで、汲み取り方式やマンホールに直結する方式などがあります。イベントや工事現場などでもよく利用されるタイプです。
- 特徴:一度設置すると多くの人が利用できますが、到着に時間がかかる場合があります。屋外設置のため、照明や防犯対策が必要です。
4. マンホールトイレ
- 概要:下水道のマンホールに便器を取り付けて使用するタイプで、マンホールの中に排泄物を流します。
- 特徴:通常の水洗トイレに近い感覚で使用でき、衛生的です。ただし、設置場所が限られるため事前に備えておく必要があります。
5. その他のトイレ(自己処理型トイレ、車載トイレ)
- 自己処理型トイレ:おが屑や水循環装置を使用して排泄物を処理します。汚水を排水しないため、衛生的に利用できます。
- 車載トイレ:トイレ設備を備えた車両を指し、避難所などで移動しながら利用できます。
これらの災害用トイレの種類を組み合わせ、被災者全員が安全で衛生的に利用できる環境を整備することが、災害時のトイレ対策の基本です。
トイレの衛生管理のポイント
- 誰もが気持ちよく使えるように:女性もリーダーシップを発揮できる避難所運営体制を整えましょう。
- 感染症予防:手洗い用の水を確保し、手洗いの徹底を心がけます。
- 専用履物の用意:体育館など室内のトイレでは専用の履物を用意することで、衛生面を維持します。
- 便袋の適切な処理:便袋を使用する場合、汚物処理の方法を徹底し、保管場所を確保します。保管場所は、雨水で濡れない場所を選ぶことが望ましいです。
- 感染症患者の対応:感染症患者が出た場合、専用のトイレを設けることを検討します。
- 責任者と掃除当番の選定:避難者の中からトイレの責任者と掃除当番を決めて、定期的な清掃を行います。
- 支援者の協力:ボランティアなどの支援者の力を借りて、衛生的なトイレ環境を維持しましょう。
実際の事例から学ぶ衛生管理
- 気仙沼市:消毒とうがいを徹底し、仮設トイレは避難者が交代で清掃を行いました。また、トイレの衛生面を考慮し、履物を変える取り組みも実施。
- 常総市:トイレ掃除当番表を作成し、管理を徹底しました。
- 陸前高田市:若い人たちがトイレ清掃ボランティアとして活動し、衛生環境の維持に貢献しました。
避難所のトイレ衛生管理は、全員が協力して取り組むべき重要な課題です。これらのポイントを実践し、感染症の予防と衛生的な環境の確保に努めましょう。
避災害時のトイレ衛生管理に必要な備品
災害時に衛生的なトイレ環境を維持するためには、事前に必要な備品を備蓄し、トイレの使い方や手洗い方法、掃除の方法を周知することが重要です。以下の備品リストでは、優先的に準備するべきものに「◎」、準備が望ましいものに「○」を付けて示します。
1. 必需品
- ◎ トイレットペーパー(ビニール包装が望ましい)
- ◎ 生理用品
- ◎ ペーパー分別ボックス/サニタリーボックス(段ボール製の場合は防護策が必要)
2. 衛生用品
- ◎ 手洗い用水・石鹸(手洗い水がある場合)
- ◎ ウェットティッシュ(手洗い水がない場合)
- ◎ 手指消毒用アルコール(手洗い水がない場合)
- ○ ペーパータオル(手洗い用)
3. 清掃する人が着用するもの
- ◎ ゴム手袋(使い捨て)
- ◎ マスク(使い捨て)
- ○ トイレ清掃用の作業着
4. 清掃用具
- ◎ 掃除用水(清掃用・消毒用)
- ◎ トイレ清掃専用バケツ(消毒水用・モップ洗浄用)
- ◎ 消毒水作成用塩素系漂白剤(キッチン用で良い)
- ◎ ビニール袋(ごみ袋用・清掃用具持ち運び用)
- ◎ トイレ掃除用ホウキ・チリトリ
- ◎ トイレ掃除用雑巾(多用途に使用するため複数用意)
- ◎ ブラシ(床用・便器用)
- ○ トイレ用洗剤(災害用トイレには中性洗剤)
- ○ モップ
- ○ ペーパータオル(掃除用)
5. トイレ関連備品
- ◎ トイレ専用の履物(室内のトイレに限る)
- ◎ トイレの使用ルールを掲示
- ◎ 手洗い・消毒の方法を掲示
- ○ 消臭剤
- ○ 消毒マット(室内との下足履きの境界)
- ○ 汚物用ビニール袋・脱臭剤
- ○ トイレ用防虫剤
この備品を速やかに確保し、衛生的なトイレ環境を維持するための準備を進めましょう。
災害時のトイレの必要数計算シート
避難所ごとの被害想定に基づき、トイレの必要数を計算することで、効率的な確保と管理が可能です。災害の種類や規模に応じて、事前に以下の計算シートを活用しましょう
災害時のトイレの必要数計算シートの使い方
1. 想定される災害種類
避難所ごとに、想定される災害の種類を選択し、複数の場合は順次検討します。
2. ライフラインの被害想定
- 上水道の機能途絶日数:水道部局に確認し、上水道が使えない日数を記入。
- 汚水処理施設の機能途絶日数:集合処理型と個別処理型のいずれかを確認し、担当部局に日数を問い合わせます。
3. 最大想定避難者数の確認
災害種類ごとに被害想定に基づき、最大想定避難者数を記入します。
4. 災害時のトイレの確保目標の設定
- 目標とするトイレの数:避難者50人あたり1基を目安にします。理想的な女性用対男性用の割合は3:1です。
- 既設トイレの洋式便器数:避難者が使える既設トイレの洋式便器の数を確認します。災害時の被害をチェックし、使用可能か確認します。
- バリアフリートイレの数:障害者や高齢者用トイレを事前に確認し、必要に応じて確保します。
トイレの種類ごとの必要数の見積もり
(1) 携帯トイレ・簡易トイレを使用する場合
- 1日当たり必要な便袋数:最大想定避難者数 × 5回
- 備蓄目標数:1日当たりの必要数 × 日数(まずは3日分を目標に)
(2) 仮設トイレ・マンホールトイレ(貯留型)を汲み取りで使用する場合
- 1日当たりのし尿発生量:300ml × 5回 × 最大想定避難者数
- し尿処理能力:便槽の容量(L)× トイレ数
- 汲み取りの回数:し尿処理能力 ÷ 1日当たりの汚物量
注意事項
- 備蓄や調達:不足するトイレは備蓄と協力業者からの調達で確保します。
- 衛生管理:携帯トイレ使用後の保管場所を確保し、ハエや臭い対策を徹底します。
- 汲み取り作業:バキューム車の手配や協定を事前に締結し、し尿処理施設の状況に応じて対応します。
トイレ確保・管理チェックリスト
トイレの確保・管理に必要な業務をリスト化し、平時からの準備や災害発生後の対応を円滑に行えるようにしましょう。担当者や関係部署の協力体制を整備し、被災者のトイレ環境を維持します。
以下は、トイレ確保・管理チェックリストの例です。
トイレ確保・設置
- □ 緊急時用の簡易トイレを確保している
- □ トイレの設置場所を安全かつプライバシーが確保できる場所に設定している
- □ 十分な数のトイレを確保し、性別や身体障害者に配慮した設置が行われている
- □ 水や汚物処理ができるスペースを確保している
- □ 設置場所への誘導サインや案内を準備している
衛生管理
- □ トイレットペーパーや消毒液、手洗い用の水などの備品を十分に準備している
- □ 定期的な清掃スケジュールを設定している
- □ ごみの分別・処理を適切に行うためのルールを設けている
- □ 使用後の衛生状態を維持するための啓発ポスターや注意書きを設置している
使用者への配慮
- □ 女性用・男性用・多目的トイレの区別がわかりやすく表示されている
- □ 高齢者や身体障害者に配慮したバリアフリートイレの設置
- □ トイレの利用人数や状況に応じて混雑緩和の対策が取られている
- □ 照明や換気の設備が適切に整っている
追加備品・対応
- □ トイレ用の袋や使い捨てカバーの用意
- □ トイレ不足時のための代替手段(簡易トイレの増設や他施設の利用)が計画されている
- □ トイレ使用に関する情報を掲示板やアナウンスで適時周知している
- □ トイレの破損や故障時にすぐに対応できる連絡体制を整えている
このチェックリストを活用し、トイレの確保・管理を徹底することで、快適で衛生的な環境を維持できます。
以下の記事は、日常生活で本当に必要なアイテムやおすすめの防災グッズを詳しく紹介しています。備えを万全にするための参考にぜひご覧ください。
まとめ
災害時の避難所におけるトイレの確保と管理は、被災者の健康と尊厳を守るために不可欠です。市町村や関係機関が連携し、平時からの準備と対策を進めることで、被災時におけるトイレ問題を最小限に抑え、被災者の生活環境を改善することができます。災害に備えたトイレ確保と衛生管理に取り組むことで、安全で快適な避難生活を実現しましょう。
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